新編武藏風土記稿 索引多摩の部 たましん p7
解説
はじめに
『新編武蔵風土記稿』は、江戸幕府によって作られた武蔵国の地誌である。林大学頭述斎の建議により、文化7年(1810)から昌平坂学問所内地誌調所において編纂が開始された。間宮士信らが編纂の任にあたり、文政11年(1828)に調査を終了、天保元年(1830)に完成した。
全体は265巻及び首1巻、附録編輯姓氏1巻で構成されており、内容は、首巻と巻之1から巻之8までは総説、巻之9から巻之265までが、郡ごとにまとめられた武蔵国22郡の郡誌・町村誌となっている。その内の巻之89から巻之128の40巻が多摩郡の部分である。(1)多摩郡にっいては、原半左衛門胤敦ら八王子千人同心の手により編纂され、文化11年(1814)9月より調査を開始し、文政5年(1822)4月に完成して地誌調所に納められた(2)。
ここでは、『新編武蔵風土記稿』の写本、活字本それぞれの書誌的な概説を記し、本索引を制作する上での諸本の位置付けにっいて、述べることにしたい。
1.『新編武蔵風土記稿』の写本について
『新編武蔵風土記稿』の写本のうち、完本として伝わっているものには、次の二種類がある。一っは、浄書稿本もしくは献上本と呼ばれるもので、全巻を255冊に収めている。もう一種は、明治初期の写本とされてきたもので、252冊本である。これら二っの写本は、共に国立公文書館内閣文庫の蔵書となっている。『国書総目録』によれば、このほかに端本として、内閣文庫、国立国会図書館、東京大学史料編纂所、東京都公文書館、天理図書館、無窮会平沼文庫にも断片的に所蔵されている。さらに、埼玉県立浦和図書館にも、抄本が一冊所蔵されている。ここでは、二種類の完本について、概略を説明する。まず、浄書稿本(献上本)にっいて述べる。この本は、内閣文庫目録に「新編武蔵風土記(浄書稿本)二六五巻附録編輯姓氏一巻間宮士信等写二五五」と記されている。この記述に基づき、本書ではこの本を「浄書稿本」と呼ぶ。書誌的な概略は次のとおり。題箋には『新編武蔵国風土記稿』と外題を記し、内題は『新編武蔵風土記』。「大学蔵書」「書籍館印」「浅草文庫」「日本政府図書」の蔵書印が押され、表紙は菱形模様の空押しのある黄色紙を用いている。この写本は、形態・内容ともに最も整った形で現在に伝わるもので、将軍への献上本とも云われている。しかしその来歴を検討すると、紅葉山文庫に所蔵されていた形跡はなく、昌平坂学問所に架蔵されていたと考えられている(3)。
武藏名勝図絵 文政3年(1820)